[p.0386][p.0387]
守貞漫稿
二十九/笠
藤笠〈○図略〉
今世江戸の士民、市中徘徊には菅笠お用ふる人希にて、とうがさ(○○○○)、〈来舶の藤なり〉竹笠、網代笠、島笠等お用ふ、又近年葛籠笠も用ふ、藤は来舶也、割削之て皮お用ひ、或は身おも削りて笠に造る、弘、化中より京坂も専用之して、竹の網代笠等廃す、竹笠は、天保初に、駿州より始て造り出し、江戸にて用之、今は藤竹ともに江戸にて造之、竹笠出て、次に藤笠お造り行る、蓋藤竹網代等、中民以上の用とす、小民も戸主等は用之、賤業、庸夫、奴僕、丁児等は不用之、〈○中略〉藤がさ竹笠、編法は、京坂に雲、〓、江戸に雲笊と同き也、〈○中略〉
京坂は藤笠お用ふれども、近年のことにて、江戸より流布十年許り後れ遅き也、
右の笠、〈○藤笠竹笠〉賤者の用に非ずと雖ども、唯江戸の履物損お補ふ非人の、俗にでい〳〵と号る者のみ、必らず手拭にて頬かむりの上、此笠の極て古く煤びたる者お用ひ、他笠お用ひず、京師は彼輩編笠、大坂は無笠也、