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柳亭筆記

十二符わけの編笠(○○○○○○○○)
十二符の編笠、〈符はあむことなり、〉編目の十二あるおいふ也、まひのそうし、たかだちに、鈴木の三郎しげ家、山伏となりて奥州へくだる事おいへる条に、奥州の衣川、高館の御所に著にけり、鈴木何とか思ひけん、おひすゞかけおばかたはらにとりかくし、おひのなかよりもうちかけとりいだしてきるまゝに、十二ふかけたる編笠おふか〴〵と引こうで雲々とあり、編笠十符お度とするゆえに、十二符はふかあみなり、ふか〴〵と引こうでとあるにてしるべし、まひのさうしは、室町家の頃つくりしものなれば、ふるくより十符の編笠(○○○○○)の名ありしゆえに、十二符かけたるとは理るなるべし、さて十符の編笠といふ事、さうしにも俳諧の句にもいまだ見いでず、向の岡〈延宝八年印本不卜撰〉おもじとおれおもはくの橋わたらばや、不卜、勘当忍ぶ菅笠の十符、才丸、菅笠にも十符の名ありしか、又談林俳諧の詞にて編笠にある名お菅笠におほせし句歟鷹つくば〈完文十五〉雪ふりの編笠なれや富士の山、道節、今様曾我〈元禄年間印本〉といふさうしに、野夫編笠(○○○○)おかぶりて吉原へかよふ事見えたり、案に野夫は仮字にて八符なるべし、編目の八つあるおいひ、前の洞房語園に、八所緘は浅しとある是なるべし、十符は原よりの度なれば、理〈る〉におよばず、ふかきものお十二符といひ、あさきものお八符〈前にいふごとく符は編めることにて、緘といふもおなじ、〉といふにやあらん、
因に雲、すべて符るものお十符お度とするは、編笠にはかぎるべからず、十符のすがこもの歌は、夫木抄文字ぐさり等にあり、舞のさうし、ふしみときばに、十符のうらなしあり、〈うらなしは草履なり、〉あめわかみ子のさうしに、とふの枕とあるも、菅枕の類にてあめる小枕なるべし、