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柳亭筆記

玉縁
玉縁といふは、さまで深からぬ編笠なり、笠の縁お見事に組たるよりの名なりとも、又革にて玉ぶちおとりたるよりの名なりとも聞り、いづれが是か、吉原つれ〴〵草矢墜、〈延宝二年印本〉三谷通する者の事おいへる条に、くらい高くやんごとなき人、みづからいやしきふりにしなして、人にあはじとこも笠にしのばるゝこそおもしろからめ雲々、同書注こも笠こもそうの笠なり、昔はかやうのものまで、今とはかはり、玉ぶち一もんじとて、すぐなるおかぶり、たゝみたるはこもそう笠とてきらへるが、此ごろはこれおもつはらにするなりとあり、〈○中略〉俳諧桃の実〈元禄六年印本〉撰者冗峯が詞に、玉ぶちの笠きたるは、今の世に乞食女ならではなし、元禄に廃れし証、〈○中略〉洞房語園に、玉縁一文字今はまれなりとあれば、此笠は熊谷笠よりは前に廃りしなるべし、