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柳亭筆記
西
熊谷笠
くまがへ笠は深き編笠なり、江戸に多し、三谷へ通ふ武士の奉公人好みて是お著せり、江戸にても町人はさまで著せず、上方筋にもまれ〳〵に是お好む者あり、六法むきにはさもあるべけれど、先姿野卑にして、人の目に立事甚し、よく似あひたるは普化僧のみなり、必是お著すべし、小あうもりの浄瑠璃に、熊谷の木偶が此笠おかぶりしよりの名か、其名義不詳、〈此説非也、武州くまがへにて作る名なり、○中略〉四季咄〈貞享年間印本〉に熊谷の中笠といふ事見えたるは、熊谷笠のうちには、形のちひさき方おいふなるべし、人倫訓蒙図彙〈元禄三年印本〉六の巻に、〈○中略〉当世忍笠熊谷笠ありと記したれば、元禄の頃までは、まれ〳〵には、かぶるものもありしなるべし、