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近世女風俗考
塗笠あみがさの事
完文の末、延宝のはじめ頃までは、塗笠編笠お専ら著たり、延宝中頃より木地の葛笠といへるもの流行し故、此二品はすたりしなり、〈○中略〉尾花〈元禄四年なること前にいへり〉一之巻に、今日は殊さら長閑にて、祇園より知恩院まで、貴賤布引の男も女も思ひ〳〵に出立、去年の花の頃までは、〈○註略〉女のぶんは見るも〳〵皆菅笠にてありしが、物は昔にもどるものかな、廿人の内四五人はさながら昔のなりにはあらねど、かる〴〵としたる塗笠、このぶんは、人の女房にも娘にも、ひと風俗おかまゆるはかくの如し、今日に菅笠にてかへらさるゝは、古当なる親仁持たる人は、小屋小屋町の口のさがなきに、せんかたなくて著てありくとみえたり雲々、〈元禄四年かくいへば、菅笠はしばし計流行て、又塗笠にもどりしなるべし、画どもにもさおぼゆる証あり、〉俳諧塗笠〈元禄十年印本〉序に、桜かざして春の気色お花葉にむすべば、玄々妙々たり、徒然の折ふし書集て塗笠となりけるは、今の世のはやり物、風姿のしほらしきに見くらべて雲々、〈と識して、浅塗笠おいたゞきたる図お出せり、いよ〳〵流行せしお見るべし、○中略〉さてむかしの塗笠には、金入紙、またはさま〴〵の絵やうかきたるものお、裏にはりし事ときこゆ、