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甲子夜話

古画に図せる婦女の深き笠の頂に、隆きところある物お冒れる多く見ゆ、此おいちめ笠と謂ふと聞けり、後或人の語れるは、今も吉野の奥より、木お用て作れる深き笠お出す、其名おおちめ笠と謂ふ、其故は乱世に平氏の人落行て、此山中にて製し出せる物なれば、おちめ笠と雲となり、然どもこれは後人の附会にして、おちめ、いちめは、語音の転訛なるべし、吉野に有るは、古風の伝はりたるまでのことなるべし、