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柳亭筆記

伏笠
紫の一本〈天和二年浄書〉に曰、此待乳山の風景言語に及がたし、〈○中略〉山の麓お歩行にて行お、山の茶屋から知る人の見ることもやと、熊谷笠おふせてかぶり雲々、醒翁此文お引て、前さがりにかつぎて面の見えざるやうにするお、すべて伏編笠といへりといふ説猶よし、俳諧には伏笠と見えたり、〈あみ笠にもあれ、菅笠にもあれ、すべてかくするお、伏笠といふなるべし、〉
ねごと草〈完文二印本〉西にかたぶく月さへも、たれに人目お忍びてや、伏笠おめす大ぞらお、思ひの余りにうち詠て、
別れ路の涙の末おいとふてやしら菅笠おめす朧月
伊勢踊〈完文八年印本、加友撰、〉 ふせ笠や逢うてうるさき人時雨 玄達 此句よく醒翁の説に合す