[p.0446]
浚明院殿御実紀附錄

織田甚助信節、〈後称図書、小納戸、〉まだ年わかゝりしころ、紅葉山へ詣させ玉ふ御供にまかりしが、唐門お出させたまふころ、にはかに村雨降ければ、甚助長柄の御傘お進らするとて、あやまちて御肩にあてしかば、大に恐懼して、かへらせ玉ひしのち、下部屋にこもり居たり、おなじ御供にまかりつる人々も、いかなる御咎あるべきかと、心うくおもひ居けるに、甚助何故御前に出ざるや、もし病にても有やと問せ玉ひしかば、小納戸頭取某答へ奉りしは、甚助今朝紅葉山にて、御長柄奉りしに、御肩にあてしと覚え候へば、御気色おはゞかり、つゝしみ居候よし申上ければ、仰に甚助としわかければ、ことにのぞみ気おくれて、思ひあやまちたるならん、今朝長柄は唐門の柱にあたりしに、それお我肩とおぼえしや、わかき時はさなるあやまちは、幾度もあるものなり、とくめし出せよとのたまひしかば、そのよし伝へて、甚助直に御前に出て、給事し奉りけるとなむ、