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甲子夜話

大洲侯に迦逅せしとき、国々の寒暑の談に及び、我平戸の気候おかたり、扠予州も海近ければ、夏も凉しかるべしと言しに、侯の臣堀尾四郎次、其座にありて曰く、曾てしからず、暑至て甚し、盛暑に至りては、途行するに、炎気黄白色おなし、空中に散流し、人目お遮り、前行十歩なる人は殆ど見へ分たず、其蒸熱堪がたし、如斯なれば、途行するもの青傘〈凉傘也、青傘は、予州の方言、〉お用ざれば凌がたし、然るに近頃青傘おさすこと停止せられしかば、暑行猶難儀なりと語りぬ、