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甲子夜話

完政中か、秋元但馬守〈永朝〉の宅お訪たりしとき話しに、御譜代の大名御役人の傘お袋に入ざることは、神祖の上意有りしことなり、然お今時重役方にも、この御趣意お知らざるにや、帝鑑衆其外も各家風の行装お、其まヽにせらるヽは、本お忘ざるとも雲べき歟、なれど御趣意お守とは雲がたしと申されし、是お以て思へば、吾天祥君、〈肥前守諱鎮信〉雄香君〈壱岐守諱棟信〉の行装に傘は袋なかりしと聞く、これそのとき御譜代の列に加へられ、御譜代の勤る御役おも蒙られし故なるべし、祖父君〈諱誠信〉の頃迄もこの如くなりしが、其後は今の如く袋には入られし也、これは家の先規に復すると雲事なるべし、