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筆の霊
後篇六十九上
引出る画は西行物語の中なるにて、其が腰に著たるは腰䒾なり、鷺の事に䒾毛といふも、其が腰にかゝる状の毛あるお雲なり、是お腰䒾と雲は、腰のほどにのみ著る裳お分て称ふ時に、腰裳と雲と同じ、腰裳は常の裳にくらぶれば、下の方ならず、腰䒾は下は常の䒾に近くして、上の方無し、されど著る程の同じければ、名の様自ら同じきが如し、〈○中略〉さて今は漁猟の人などのみ腰䒾お著れど、昔は然はあらざりしなり、猿曳なども是お著たるものなり、三十二番職人尽歌合の画などに見えたり、其状こゝに引が如し、今網打の著る腰䒾には、上の方腹にかかれるもあれど、此画なる腹の所に在て、頸よりかけたる物は、其䒾の上の方とも見えず、是は猿お舞はす時の具なり、