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板坂卜斎記

廿三日〈○慶長三年九月、中略、〉日お忘れ候が、石田治部少輔お捕来る由、田中兵部少輔に被仰付、近江国北の郡お、草お分候如く尋候へ共、在処知れず、或夜兵部少輔宿所の前お、夜に入一人通申候、番の者何ものぞと改候へば、台所に水汲と答らるゝの由、水汲にても何者にても通し候事有間敷と、番の者寄合捕候へば、折ふし小雨降、暗き闇の夜なり、捕候て火お点し見候得ば、治部少なり、出立は綾の茶の小袖に裏は浅黄、笠お被り、腰蓑おして端折れ候、