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今昔物語
十六
丹後国成合観音霊験語第四
今昔、丹後国に成合と雲ふ山寺有り、観音の験し給ふ所也、其の寺お成合と雲故お尋ぬれば、昔し仏道お修行する貧き僧有て、其寺に籠て行ける間に、其の寺高き山にして、其の国の中にも雪高く降り、風嶮く吹く、而るに冬の間にて雪高く降りて人不通ず、而る間此の僧粮絶て日来お経るに、物お不食ずして可死し、雪高くして里に出て乞食するにも不能ず、亦草木の可食きも無し、暫くこそ念じても居たれ、既に十日許にも成ぬれば、力無くして可起上き心地せず、然れば堂の辰巳の角に蓑の破たる敷て臥たり、〈○下略〉