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本朝世事談綺正誤
器用一
合羽
按に、采覧異言曰、喎蘭地篇雲、又披皂縵如帊為荘服、猶浮屠著僧伽黎、〈笠お雲ふうと、上衣雲まんとると、波爾杜瓦爾呼為かつぱ、此間雨衣蓋効此制也、〉鈐錄曰、合羽〈雨具也〉と雲ことは、元来阿蘭陀詞にて、阿蘭人の衣服お雲、雨具おかつぱの如く拵たるゆへ、かつぱと雲、安斎随筆赤鳥巻曰、今世ばうずがつぱと雲もの其始也雲々、合羽と書はあて字也など、くさ〴〵見えて、蛮語なるやうなれどさにはあらず、再按に、節用集大全巻の二、加の部曰、紙羽(かつは)註雲、雨衣也、即紙羽織之略語、例如略紙小袖而言紙小、とあるにて思へば、毛吹草四の巻曰、春のけふきたり霞の雨ばおり、因果物語巻の二曰、武州神奈川の宿にある旅人、宿おか与て、朝とく立出るとて、雨のふりければ、亭主の雨ばおりおぬすみきて出んとするに、何ものともしれず、それは掌主の雨羽織なり、とあるお以て、思ひあはすれば、むかしは布の羽織に、油お引て雨衣とせしものと見ゆ、そお後に紙にてこしらへたる故に、紙羽織といへるお省きて、かつぱど音便にていへるなるべし、〈物類称呼巻の四曰、雨衣、江戸にて、もめんかつばといふ、中国四国ともに、あまばおりといふ、〉また大和志巻の四、平群郡土産の部に、雨衣〈能用村紙製、俗曰合羽、〉など見ゆれば、後には紙にてこしらへそめしこと、いよ〳〵しられたり、