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高忠聞書
一行騰のわり合事、夏毛と秋ふたげとわり合する時は、夏毛は前へ也、秋ふた毛は後へなるべし、其謂はむかばきのはじまり夏毛なり、さるによりて夏毛前へなす也、わり合は略儀也、はれの犬笠懸の時はくまじきなり、
一熊の皮又へう虎のかはにてわり合の時は、夏毛の事は不及申、鹿の革にてあらば、何革も前へ成べし、鹿の皮お除て、豹虎の革、熊の皮などにてわり合する事、太不可有候なり、
一秋ふたげと夏げとかたかはづゝ、むかばきにきる事あるまじき也、いろのすこしちがふはくるしからず、
一ぬりむかばきと雲は、うるしにてぬる也、是又略儀也、ほしお白くのこして、地お少黒くぬりたるお、宿老などはきたるは猶一興也、はれの犬などの時は、はくべからず、内々の犬追物などの時は、はく事くるしからず、〈○中略〉
一行騰の長さ三尺六寸、腰のせすぢのとおりより、白毛までの事、此三尺六寸たかばかりに不有、かねの定にも不有、我手の定也、此三尺六寸の長さ行騰の本尺也、但三尺六寸本の尺のいはれお尋申処に、昔より今に申伝又は註置也、謂は無存知由被仰とや、これはことなる秘事也、人不存知事也、〈○中略〉
此あひお腰と雲人のこしによりてひろくもせまくもきる
此すぢかいの長さ六寸但腰によりて五寸にもすべし
是おひれと雲
かへり一寸と雲
是お下のひれと雲
刀さしさやお出すあななり
此長さ三尺六寸
此あひ四寸
すそのひろさ一尺二寸
是お白毛と雲也
このとおりなか腰と雲小腰共いふ也上より手一束おきて付べし
四寸
沓二三と雲
気ろへ〓と雲四寸
上より手一束おきて付
小緒と雲
是は常に犬笠懸などにはくむかばき也、長さは人のたけによりて、みよき程にきるべし、別目とどめの事は、引目の大小によりて、前へも後へもよるべし、緒の革の事、菖蒲革本也、黒皮ふすべ革などおつくること略儀也、はれの犬などには、黒革ふすべ革おに付たるむかばきはく事不有、又くつごみのおゝば三所に可付、但大なるむかばきには四所に付べき也、
一御所様の御むかばきのおは、紫革為べし、御むかばきの裏お、あやなどお色々に染てうたせらるゝ也、又しゆす段子など、から物にてうたせらるゝ也、又裏おうたざるおもめさるゝ也、
一むかばきの腰の事、一寸ちがはゞ、かりむかばき一寸あかばかり行騰といへり、是はうしろのちがふほどらひの事なり、五分ばかりちがふたるがよきなり、前は二三寸あきたるがよき也、〈○図略〉