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高忠聞書
一むかばきの事、鹿のかは本也、殊夏毛本也、犬追物、笠懸などには、おさなわかき人は夏毛お用べし、十八九廿あまりまでは、夏毛の秋かけたるお可用、中老宿老に至ては、秋ふたげの黒き皮お用べし、〈○中略〉
一行騰の事、笠懸、流鏑馬、神事に射る時は、若衆のことは不及申、歳七十八十に成共、黒夏毛の行騰はくべし、夏毛の行騰本たるによりての義也、犬追物時はくごとく、ながくはあるまじき也、いかにもみじかくつめてきるべし、神事行騰の切やうしるしおき候也、おりめのすそおすぢかへて切也是によりて自然けがれおも除、神慮にもあふと申来るなり、〈○中略〉
一行騰のおこりの事尋申候処、昔は今人の上下きたるごとく、いしやうにて不断はきたる也、然間何事おもせよ、行騰おはきてしたる間、今にしきしきの時は、みな笠懸、小笠懸、流鏑馬、かりなどのときはくなり、〈○中略〉
一流鏑馬、笠懸、犬追物、又はかりの時、行騰お敷て酒おものみ、ひんおも付などするときは、左皮おとりて敷て座すべし、白毛の方左へなへし、むかばきのおもての方、上へなして敷也、ひれの方、少たてざまにおりて敷べし、又白毛の方の折目のはしおたてざまに少折ても敷なり、二色の内いづれにても、一方おりて敷べし、ひれの方一かはにておりよきなり、行騰両方ながらとりて、左皮お敷べし、左皮ばかりおとりて、右皮おはきても居なり、
一行騰おくらにうちかけて出ることあり、又犬笠懸射はてゝ帰る蒔、鞍にかけて帰る事もあるべし、其時むかばきおくらにかくるには、右皮お先鞍にかけて、さて左皮お上にかけて、白毛くらの左へなるべし、手縄にてむかばきおからむべし、