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宝蔵


わづかに善あれば惡有、長きあれば短有、前あれば後したがひ、右あれば左まじはれるは、物毎の理なりけらし、此ものにつきても、五十にして家につき、六十にして郷につき、七十にして国につき、八十にして朝につくは、寿といひ栄といひ、めでたき事のかぎりなれど、若くてつく人は病るか不礼か、猟漁の為にしてみなよからざるわざにこそ、うつ杖にも親師の諫めの杖は後くすりなりけれど、囚のうたるゝは、始もわろし後もいたし、このふたつおわきまへざらんや、されども其よき事のみ己に帰すべきとにもあらず、いたりていはゞさかふるも時、おとらふるも時なるべし、そもまたせまりてちかづくとに、はあらざるべし、世お苦竹の杖よ、国につくべき栄もまたず、人おうつべき禁もなし、雨ふり道あしければつく、晴ればつかず、病おこればつく、いゆればつかず、つかまくおもへばつく、いななればつかず、人の杖にあらず、みなわが杖なり、つら杖もまたしかなり、ほうづえもかたぶく月の詠め哉
病身捨世始無憂 儀礼不修杖郡州 何本截成何本失 一林痩竹吾兎裘