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明良洪範
二十
水野監物下屋敷へ行て、家中の者の乗馬見物すべしと、馬場に出られける時に、中小姓の挟箱持一人馬場辺お徘徊しけるが、監物出られし音に驚き、挟箱お馬場に捨置逃去けり、監物是お見て、此挟箱は誰のかは知らねども、かり申とて手にて戴き、会釈して腰お掛られける時に、ふたお明けさせて見られしに、焼飯三つ反古に包、草鞋二足あり、監物見られて、殊の外機嫌よく、其挟箱の主お呼出し、其方事心掛よき武士也、侍は腹へりては武辺もならず、然れば食物草鞋は武用第一のものなり、其方不勝手と見へて、焼飯の色黒し、精げにいたし候やうに加増申付べしとて、其場にて米三石加増致しけるとなり、