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落穂集追加

多葉粉初りの事
問曰、世上の貴賤上下共にもてはやす多葉粉の義は、上古来は無之物にて、近来のはやり物に有之候由、其元には如何聞き被及候や、答曰、我等若年の比、或老人の物語り仕るは、多葉粉と申者は、古来は無之所に、天正年中、切支丹宗門と申事の世に広り候時節より、多葉粉も初る也、然ば元来は無之所、南蛮国の土産の草抔にても有之や、以前の義は、きせる抔お張り申す細工人も希なる故、直段等も六つかしく、下々の者は、求る義も成りかねるに付、竹の筒のあと先きに節おこめ(○○○○○○○○○○○○○)、大きく穴お明け(○○○○○○○)、先の方お火皿に用(○○○○○○○○)て、多葉粉おつぎ吸申由なり、其元は西国筋より時花出し、中国五畿内にても、我人共にもてはやすなれ共、関東筋に於ては、多葉粉お給ると有之義おば、誰も不存如く有之所に、いつの程か段々と時花出し、きせるお仕る細工人抔も多くなり、竹の筒のきせる抔と申物もすたり候由、件の老人の物語仕たる事也、然ば多葉粉の時花初めは、さのみ久敷事の様には不存候なり、