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賤のおだ巻
一きせるも品々流行たり、されども大抵今もかはらず、京都の桜ばり(○○○○○○)のみ、万代不易の形にて、その比もおとなしき人は用ひたりしが、今もかはらず、又流行もせず、其外品々新作、いづれとも大同小異にて、さして目立たるもなし、しかしながら、昔は打のべのきせる(○○○○○○○)お持者、十人に三四人も有たり、又女は継らう(○○○)とて、長きらうお二つに切て、夫お相口おこしらへ、継て長ききせるにして呑たり、仕舞時は二つにして、懐中するなり、〈其継目の相口お角にてするもあり、銀にてするもあり、ほり物など迄に物好したり、〉又懐中きせる(○○○○○)とて、打のべのきせるお三継にて、入子にしてふり出せば、能かげんの長ききせるになる様にして、納る時は吸口より入子にして仕舞やうにして、みじかくなるなり、一旦はやりて、殿中御役人など専ら用ひたり、畢竟懐中の為なり、
又瀬戸物きせる(○○○○○○)もありけり、雁首吸口おきれいに焼物にして、もやうなども焼付たり、是は婦人子供の化粧きせるなり、ともにすたりて、今は余りしる人もまれなり、
懐中きせるたゝみたる所
懐中きせるふり出したる所