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浚明院殿御実紀附錄

浜の御庭へならせられし時、輿丁等御帰り待ほど、御輿おおろしたる側に、煙草のみて、互に戯れごとなど雲しに、一人の輿丁坐睡して、手にもちし烟具おみな御轎のうちにおとしけるおしらずありしに、はやかへらせ玉ふとうちおどろかされ、狼狽してそのまゝにして御轎おかき出せしが、途にてこはいかゞとおもひわづらひ、かへらせ玉ひし後、御轎の中お探りもとめしかど、さらになければ、弥いぶかしく、やがて御轎のなかの御茵おあげしかば、其下に管も袋(○)も紙につゝみてあり、これははじめ御茵の上に在しお、人の見付たらんには、重き罪たるべしとて、わざと御みづからかくはせさせ玉ひしなるべしとて、その輿丁ひそかに人にかたりて涙お流しける、