[p.0557]
目ざまし草
考証雑話
芬盤(たはこぼん)といふものは、〈ある説に、志野家の人、某の侯と謀て、香具おとりあはせたりといへり、〉香具お取あはせて用ひしとなり、盈は即ち香盆、火入は香炉、唾壺は炷燼壺、煙包は銀葉匣、盆の前に、煙管お二本おくは(○○○○○○○○)、香箸のかはりなりとぞ、後々に至り、今の書院たばこ盆(○○○○○○)といふ様の物出来ると也、大人〈○大槻盤水〉往年長崎に遊学(ものまなび)給ひし時、土俗たばこ盆の事おかうぼんといひ、老婦女などは、客来れば、かうぼん持てわたいといふ、わたいとは、渡れといふ事にて、持て来のこゝうと聞ゆ、かうぼんは、だばこ盆お促(ちゞめ)呼と覚ゆと冷笑せしに、かうぼんは、即ち香盆にして、昔の辞の、西鄙には今に残りし事と思知だり、〈香盆の事、往年間氏に聞しも本説のごとし、但煙包は香合或は香包也、外に長き竹二本、先おそぎたるお添ふ、こは香箸お転ぜしにて、そぎたる所へ煙おつぎて用ひしと也、〉