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橘庵漫筆
二編一
本玉の眼鏡と雲ものは、眼の為によろしといへど、実は甚よろしからずとぞ、今日本にて、制せしめがねは眼の為によろし実眼は青き色お薬とし能有として、眼お専はらつかふ者は座右に石菖蒲などの物お置て眼お育なり、日本制の目鏡は自然に青み有てよろし、本玉の目鏡は白きに過ぎ、其上寒冷の気勝故、眼お虚寒せしむ、眼に損有て益なし、眼は常に外より温め内より凉からしむるによろし、かならず寒冷の気勝しむべからず、眼の性お養ふ十訓は、一淫、二酒、三湯、四力、五行、六音、七苦、八風、九白、十細といへち、誠に一身の日月にして明らかならざれば万事休す、先文と雲武と雲、及四民とも、失明して、は身お立る事難し、扠阿蘭陀人のたしなむ眼鏡は、皆青玉なりとかや、本玉益あらば阿蘭陀に用ふべきに、左なきお見れば和産の物然るべし、