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西遊記
続篇五
奇器
細工の微妙なる事は、世界の内阿蘭陀に勝る国なし、〈○中略〉虫目鏡(○○○)のいたりて細微なるは、わづか一滴の水お針の先に付て見るに、清浄水の中に種々異形異類の虫ありて、いまだ世界に見ざる処の生類遊行したり、又潮お見れば、六角成物の集りたるなり、油は丸きものゝあつまりたるなり、水は三角なるものゝ集りたるなり、其外酒酢などには、色々火敷虫あり、〈○中略〉又望遠鏡(○○○)とて、日月星辰迄力の届く遠目鏡ありて、日月の真象お見分ち、星も太白星おみれば、月の如く盈虧あり、木星おみれば三つ引の紋の如く横に帯あり、土星おみれば斜に輪まとひて、星の形長くみゆ、其外銀河の白き所おみれば、小き星火敷聚りたるにて、其小星よくわかりて数へつべし、近き頃泉州の人岩橋善兵衛、此望遠鏡お作り出して、阿蘭陀渡りの望遠鏡よりもよくみゆ、余が家にも所持す、又隣目鏡(○○○)とて高塀お打越して隣おみる目鏡あり、又暗夜に遠方おみる目鏡(○○○○○○○○○○)あり、猶この外にも種々の奇器、人の耳目おおどろかすもの、年々にわたり来れり、