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舟は、ふねと雲ひ、旧くうくだからとも称す、水行の具なり、神代に於て、既に天磐余樟船、天鳥船等の名見えたれば、其用の久しきお知るべし、崇神天皇の時、詔して諸国に船舶お造らしむ、神功皇后、征韓以来、其用漸く盛んにして、造船の事歷朝絶えず、欽明天皇の朝、王辰爾お以て船長と為し、始て船賦お錄せしめ、文武天皇大宝の制、兵部省に、主船司お置きて、公私の舟楫、及び舟具等お掌らしむ、奈良朝より平安遷都以後に至るまで、造船の挙屢〈〻〉あり、而して其用は、多くは遣唐使の為にし、又は征戦運輸に充てたるものなり、其後造船の業漸く衰へたりしが、近古に至り、復た外国と往来し、運輸の事も亦従て盛になりしお以て、船舶の用も亦興れり、徳川幕府の初世、大船お造ることお禁ぜしが、嘉永年間、欧米各国の渡来するに及び、其禁お解き、造船の製も一変せり、
船舶の種類名称極めて多し、今其一端お挙げんに、原質お以て名とする者に、杉船、板船等あり、製作お以て名とする者に、赤乃曾穂船(あけのそほぶね)、屋形船(やかたぶね)、檜垣船(ひがきぶね)等あり、形状お以て名とする者に、舶(おほぶね)、艇(こぶね)、艜(ひらた)、剣鋒(けんさき)船等あり、地名お以て名とする者に、難波船、伊勢船等あり、用法お以て名とする者に、釣船(つりぶね)、鯨船(くぢらぶね)、兵船等あり、〈兵船の事は、兵事部水戦篇に収む、〉積載の物お以て名とする者に、稲船、柴船、土船等あり、而して船具には櫓、櫂、篙、楫、舵、帆、帆柱、帆綱、牽〓(ひきづな)、纜(ともつな)、碇等あり、