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慶長見聞集

唐船作らしめ給ふ事
見しは昔、慶長年中、家康公唐船お作らしめ給ひ、浅草川の入江につながせ給ふ、かゝる大舟おつくり、海にうかべる事、汀にては人力も及びがたかるべし、いかやうなる手だて有て出るや、さらに分別におよばず、〈○中略〉扠又唐船海中へ出す事、海に綱引まき、車も立がたし、陸にて手子ばうも及ぶべからず、〈○中略〉先年作らしめ給ふ浅草川の唐舟は、伊豆の国伊東といふ浜辺の在所に川あり、是こそ唐舟作るべき地形なりとて、其浜の砂の上に柱おしきだいとして、其上に舟の敷お置、半作の比より砂お堀上、敷台の柱お少づゝさげ、堀の中に舟おおき、此舟海中へうかべる時に至て、河尻おせきとめ、其河水お舟のある堀へながし入、水のちからおもて海中へおし出す、此たくみお昔鎌倉の人はしらざるにや、