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万葉考槻落葉
三之巻別記
赤乃曾保船
営繕令雲、凡官私船、毎年具顕色目勝受斛斗破除見在任不、附朝集使申省、義解雲、謂蔦樟之類、是為色也、舶艇之類、是為目也雲々とあるお、集解に、或人古記お引て、公船者、以朱漆之といへり、是は義解の説にもとりて、却て色目の解お誤れるものなるべけれど、官私の船、彩色によりて分別ある事、且官船は朱漆なる事この古記にて知られたり、則巻十六に、奥去哉(おきゆくや)、亦羅小船爾(あからおふねに)、裹遣者(つとやらば)、若人見而(わかきひとみて)、解披見鴨(ときあけみむかも)、とある赤羅小船は、公船なるよしは、その左註に見えたり、又同巻に、奥国(おきのくに)、領君之(しらするきみが)、染屋形(そめやかた)、黄染乃屋形(きそめのやかた)、神乃門渡(かみのとわたる)、とあるは、配流の人などは、黄染の船に乗るにや、この歌、怕物歌と題せるは、隠岐の国に、はふりやらるゝ人の、黄染の船に乗て、かしこき神の海門お渡り行お、おそろしむ意によめるなるべし、是等の歌にて、船に彩色の品ありて、公私の分別ある事、いよゝ明らか也、