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長門本平家物語
十六
去る程に熊谷が使の船もちかづきて、五たんばかりにぞゆらへたる、新中納言殿の給ひけるは、いかなるはんくわい張良が乗たりとも、か程の小船に何事のあるべきぞ、平内左衛門はなきか、行向ひて事の子細お尋よかし、伊賀平内左衛門家仲は、木蘭地に色々の糸おもて、獅子に牡丹ぬひたるひたゝれ、こしあて、小ぐそくばかりにて、郎等二人にはら巻きせ、はし船にとり乗り、熊谷が使の船におし向て、事のやうおぞ尋ける、