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袖中抄
十二
いづてぶね〈○中略〉
顕昭雲、いづてぶねとは、万葉集に伊豆手船とかけり、船は伊豆国よりつくりいだしたれば、しかよめるにや、〈○中略〉
万葉第廿六〈○六字恐衍〉ほり江こぐ、伊豆手の船の、かぢつくめ、おとしばたちぬ、みおはやみかも、是は家持が越中国にて詠歌也、あながちにいづの船不可詠と、伊豆船お本体としつればよめるなるべし、都にても便にしたがひて、松浦船、つくし船などもよめり、又武蔵あぶみなどもよめり、〈○中略〉
奥義抄雲、船こぐものおば、いくてと雲也、かた〳〵に一人づゝあはせて二人おひとてと雲也、いづてぶねは一人してこぐ船也、
和語抄雲、いづて舟とは、かぢひとつ、ろよつある船おいふ也、
私雲、ひとてとは、二人お雲也、かぢひとつ、ろよつと雲は、一人おひとてと雲にや、いはれず、
又日本紀に、熊野の諸手舟と雲ふねあり、もろ手の船と雲也、されば五手の船も、あしからず、但舟の大小にしたがひて、ろおばたつるに、二手三手四手六手とはよまずして、五手としもよめることぞ、いかゞときこゆる、万葉に、八梶かけとよめるは、かぢとはいへど、ろおよめるなりそれはおほかるかずおとりて八と雲也、五手は、なにゝもあらざる歟、梶は、とりかぢおもかぢとて、二には過ざる物なり、但八は陰数のおほかるなり、さてやそ、やおなどよめり、五は陽数のおほかる也、さていお、いそとよむ也、さればいづ手はおほかるかず也、