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太平記
十七
金崎城攻事附野中八郎事
中村六郎と雲者、痛手お負て舟に乗殿れ、礒陰なる小松の陰に、太刀お倒について、其舟寄よと招共、あれ〳〵と雲計にて、助んとする者も無りけり、援に播磨国の住人野中八郎貞国と雲ける者、是お見て、〈○中略〉此船漕戻せ、中村助んと雲けれ共、人敢て耳にも不聞入、貞国、大に忿て、人の指櫓(○○)お引奪て逆櫓に立、自船お押返し、遠浅より下立て、隻一人中村が前へ歩行、