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和漢船用集
十一/用具
櫂 字彙曰、進船楫、在傍撥水、短曰楫、長曰櫂、韻会曰、前推曰槳、後曳曰櫂、縦曰櫓、横曰漿、是にて別べし、前べ押す槳は打かい(○○○)也、後へ曳く櫂はかい(○○)也、縦に押す者は櫓(○)也、横に押す者は打かい(○○○)也、〈○中略〉武備志に、其尾無櫓、其傍無槳といへり、しかれば舳に立大なるお櫓と雲、左右の傍に立お槳と雲、則わきろ(○○○)と読せり、軍書等に脇櫓脇梶と雲も櫓なり、ろ(○)、かい(○○)、さほ(○○)、かぢ(○○)、四名一物(○○○○)にして、大小長短の品に依て、文字の差別あるべし、ろと雲、かいと雲、さほと雲、かぢと雲べき者、櫂、棹、櫂、楫、楫、橈、枻、〓、槳、䒂、榜、篣、篙、般等の字也、いづれも、ろ、かい、さほ、かぢと雲読はあれども、今雲、ろにも、かぢにもあらず、万葉拾穂、季吟曰、此集かいおかぢとよむ歌おほし、上古は仮名づかい、さして定らざる故也といへり、万葉に、楫おかいとよめるお、和名抄に加遅とす、万葉にかぎらず、古にはかいおかぢと雲しと見へたり、〈○中略〉万葉に、八十梶かけと読るは、八拾丁立なり、漢に八十棹と見へたり、是棹櫓なるべし、和名抄、舵おたいしと雲にて見るべし、今是おかぢと雲、船一艘に、たゞ一つ有者なり、〈○中略〉古事記、万葉等、楫、橈、梶と書、為舵字謬乎といへり、又書にのするといへども、誤る者すくなからず、続日本紀、文徳実録、桅おかぢと訓ず、和玉篇に舵おさほとし、給おかぢと読せり、甚敷者は、下学集、節用等、械の字お書、船具とす、械はあしかせなり、音かいと雲故に誤る者か、則船械と雲は、船底に穴お明、首かせとする也、五車韻瑞に見へたり、駱賓王集に、軽柯木蘭橈、楊泉五湖賦に、赤檜為櫂、詩の竹竿篇に檜楫あり、是皆かいなり、今艫櫂とすべき者、樫お用、儲、櫟、まてばしいなど用こと、貝原和本草にも載られたり、〈○中略〉
打楫 万葉に、玉纏の小楫とよめり、藻塩草に、うちかいといへり、字注、在傍撥水、短曰楫、又前推曰槳、縦曰櫓、横曰槳、櫓は櫓床ありて、たてに押す者なり、打かいは小船に用、船枻に縄おわなにくゝり、是に通し、左右のかたはらに有てみじかく、船枻おろ床として、横に水お撥、前へおして船おやる者也、韻会に注せるがごとし、しかれば楫、揖、槳、䒂、橈、並に打かいとすべし、舳のおさへに立るお練楫と雲、長くして大也、凡かいは川江に用て海中に用られず、打かいは河海江湖、用られざる処なし、武備志に、蕩槳と有、論語に傲蕩舟、蕩は陸地に舟お行也、やりろとすべきか、軍書に槳おわきろと読せり、共に打かいとすべし、今游艇に用、又すべて山川高瀬舟に用る者なり、