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藩翰譜
一/水野
勝成、〈○中略〉豊前の国に往き、黒田甲斐守長政に仕ふ、〈千石お領すと〉長政船に乗て、大坂に上るとて、勝成お召し、帆柱にまとひたる縄とけといひしかば、勝成おもふやう、如何に心は猛くとも、かゝるわざに慣れざらんものが、これほど走る船の檣に登る事なるべきや、奇怪なる事いふ人なると、腹だちけれども、辞せんもさすが口おしと思ひ、頓て攀ぢのぼつて、帆縄引ときて下りぬ、かく僻事いはん主に仕へん事益なしとて、その夜船の著たる所よりたち去る、