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甲子夜話
二十三
泉州の回船、何くの沖にや、夜中颶風に逢、船覆り人皆没す、此中一人、小板の浮お見て、これに取つき、遊泳して天明に至る、〈○中略〉久して海巌の所に到る、喜び上らんとするに、忽披髪の童子来集て、竿お以てつき出し、上ることお得ず、又沖に泳ぎいでたるに、漸々風静り天晴れ、時幸に本船の帆お張て来るに逢ふ、乃手お挙て招けば、端舟お卸し救ひあげたり、即蘇生の心して、頼み持し板お見れば、金毘羅権現の守板なり、始てその霊助なるお知て、尊仰して歎語せるお船頭聞つけ、其札お乞ふて止まず、彼男も与ること無らんと為れども、亦救恩黙止がたければ、遂に札お授けたり、船頭乃此船魂と祭り、船お金毘羅丸(○○○○)と名づけぬ、