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毛利家記

御小性衆に、半介お呼候へと仰有て被召寄、御諚には、御船頭明石与次兵衛、今朝御出船の時、御船おば、四国の地へ乗可申と雲し程に、乗前近きかと尋ければ、少しまはりにては御座候と申、然らば潮あひ乗よきか卜問ければ、夫は何方も同じ事にて御座候卜申、さあらば急て上ることなれば、遠き方へは何とて乗るべけんや、常の如乗候へ、渚近く乗候へと雲しに、沖お乗て船お乗損じ、危きめお御覧ぜられしに、右京大夫参合て、御命お助け申たり、与次兵衛こと、御誅罰有べけれども、累年御船頭仕たる者なれば、一命の処は御助有べし、両耳おそぎ、追捨候へとの御諚にて、半介殿は、御船へ被参し、〈○下略〉