[p.0746]
正月揃

売船の雞日
自然居士おうたへば、船のおこり、柳の一葉に蜘といふ虫聞えたり、日本にはじまりしは、貞享五つのとしより、千七百六七十年以前、崇神天皇十七年庚子のとし、はじめて諸国に舟おつくりて、江お渡し海おこえ、山田矢橋のわたし舟に便船して、三里まはらぬ、ちか道出来せり、まことに国土の宝として、遠きもろこしの名物、薬種、絹糸、書物、仏像おわたし、陸労煩なる江戸へも、京から大坂難波より、追風にまかせて、ねながら財宝お運びめぐらすたからなり、しかるに船玉の神、渡神の社、住吉大明神の札お押て、まづ正月の乗初、酒飯備へ奉り、纜おとき、碇おあげ、檣お立、帆おひき、艫お見、屋形おかざり、舳お見、星おながめ、山おうかゞひ、楫執お下知し、水子は艫櫂棹お取なほし、篷おたゝみ、順風お得ては勇おなし、舷お扣き船頭お諫め、唐土、天竺、新羅、百済、契丹国に渡り、色々の禽獣、種々の宝お取て、嵐にまかせて我国に戻る、