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羽倉考

車の上葺檳榔毛之事
古図に、白く鳥の羽などお重ねたる如くなる由、然らば檳榔の葉なるべし、飾抄に、檳榔毛当家用菅とあり、三条家装束抄にも、檳榔なき時は、菅お用ふる説ありとあり、菅の代に用ふるならば葉なるべし、檳榔の葉は、芭蕉の葉の如しと、本草綱目にあり、又毛の字お付る事は、毛髪の毛には非ず、葺事おけと雲歟、糸お以て葺るおも糸毛の車と雲、延喜式には、糸葺の車と書たり、然らば檳榔毛も檳榔葺なる歟、其檳榔は、飾抄に、檳榔、前関白近衛領、鎮西志摩戸庄土産とあり、今八丁堀萱場町に、菅笠お賈者あり、其菅笠の中に、びらう〈又ぼろとも雲〉とて、芭蕉の葉の如き白き物にて作れるあり、是薩摩より出ると雲り、其名其形同じき而已ならず、鎮西の産にて、菅に代るお以て察すれば、是則檳榔なるべき歟、