[p.0874][p.0875]
嬉遊笑覧
二下/器用
近ごろの絵おみるに、車の後より、榻の外に、かけはし(○○○○)と雲ふものお持行処あり、黒く塗りたる階子なり、賀茂氏〈○真淵〉の雑問答考に、榻は牛おはなちてより、軛おかくれど、先は是お踏て乗も下もする物にて、それが料によきほどの高さに作りたるなり、然るお此答に、桟のことおいへるは、いかにぞや、車のこと、古今とよろづの書にも、古き絵などにも、しぢは有て、桟のごときものはなし、たゞ近ごろさかしらに、さる物お作り出せしと見えたり、且つそれおしぎと名付しは、古今和歌集に、しぎの羽がき百羽がきと、此鳥の羽掻のしげきおよめる歌のあるお、後の世にとりかへて、榻の端に、きざみ付たりてふ、例の戯れ物語お作りしより、又後人しぎといひ、しぢといふ争のあるお、又好事の、車にしちの外に、しぎてふ物ありて、それにきざみは、つけたりなどいひげんおもて、この桟の名とせし事、しるきなりと雲へり、