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続世継
二/白河の花宴
保安五年にや侍けむ、きさらぎにうるふ月侍し年、白河の花御らんぜさせ給とて、みゆきせさせ給ひしこそ、世にたぐひなきことには侍りしか、〈○中略〉院〈○鳥羽〉の御車ののちに、待賢門院〈○藤原璋子〉ひきつゞきておはします、女房のだしぐるま(○○○○○)のうちいで、しろがねこがねにしかへされたり、女院の御車のしりには、みなくれないの十ばかりなるいだされて、くれないのうちぎぬ、さくらもえぎのうはぎ、あか色のからぎぬに、しろがねこがねおのべて、くわんのもんおかれて、地ずりのもにも、かねおのべて、すはまつるかめおしたるに、ものこしにもしろがねおのべて、うはざしは玉おつらぬきて、かざられ侍りける、よしだの斎宮の御はゝやのり給へりけんとぞきこえ侍し、又いだし車(○○○○)十両なれば、四十人の女房、おもひ〳〵によそひども心おつくして、けふばかりは制もやぶれてぞ侍ける、〈○中略〉いづれのとしにか侍りけむ、雪の御幸せさせ給ひしに、〈○中略〉法皇〈○白河〉も、院〈○鳥羽〉も、みやこのうちには、ひとつ御車にたてまつりて、新院〈○崇徳〉御直衣に紅の御ぞいださせ給て、御馬にたてまつりけるこそ、いとめづらしくえにもかゝまほしく侍けれ、二条の大宮の女ばう、出し車(○○○)に、菊もみぢの色々なる衣どもいだしたるに、うへ下に白き衣お重ねて、ぬひ合せたれば、ほころびは多く、縫めはすくなくて、あつきぬの綿などのやうにて、こぼれいでたるが、菊紅葉のうへに雪のふりおけるやうにて、御(いつ)くるま立つゞけ侍りけるこそ、いと所多く侍りけれ、