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雅亮装束抄

くるまのきぬおいだすこと
御くるまのしりよりきぬおいだす事つねのごとし、但ししたすだれおかみにおしかふことおせで、つまとそでとのあはひにおくべし、ものこしさげて、ぢずりのつまお、すこしこしのうへにひきいだすべし、きぬのいづることは、くるまのはうだてのかみ二三寸ばかりよりはじめてひきいだして、うちぎぬひとへうはぎ、うるはしくかさねてひきいだして、とみのおのうへ四寸ばかり、つまさきおすかして、きののまへおまへいたによくおきて、くるまのそでにおしかけていだして、そでのぬひめおしたにおきなして、すそにおし付けて、袖口おみせておくべし、袖の下より、ものこしひきいづべし、ながさ二尺ばかり、おほかたはきぬのせのひのぬひめにいとおながくつけて、竹おけづりて、車のうちにさして、そのたけにいだしてのち、よきほどおかけよ、さがらでよきなり、いづるほどは、きぬのひろさ、まへのかたおいだすに、せぬひのほうたてにかくるゝほどなるがよきなり、いとのすだれよりいでぬほどなるがよきなり、せはまへいでんには、そのいとおすこしおくにいれてつけよ、女房のくるまのきぬいづることもこの定なり、下すだれおすだれのかみにおしはさみて、ひとへとくるまのそでとのあはひにさぐべし、御くるまのしりにかはることは、このしたすだればかりなり、ものこしは、一りやうに四すぢつくなり、まへの左右に二すぢ、うしろの左右にふたすぢなり、ながさ二尺よばかりなどいだすべし、ものこしは、あはひおひろくいだせ、せばきはわろし、うたてあり、二人のりは、くちばかりにいだすべきなり、わらはのさうぞくおいだすこと、まづわらは向ひて二人のりたれば、はしのかたのかたばかまお、あらんかぎりしもざまにひきいだして、そのはかまのうへに、かざみのしりのすそお、わらはのうしろよりひきいだして、おもておうらになかおりにして、はかまのすそに、二寸ばかりなど、たらさで引さげて、それに又ならべて、かざみのまへひとつおひきいだして、はかまのうへにならぶるなり、うらうへこの定なれば、わなおみなむかひざまにいだすべし、一人おこの定にいだせば、いづれもおなじことなり、たゞし右のくちにのりたるは、あふぎさしたるておさげず、左のくちのは、ひだりのておばたゞうちおきて、右の手にてあふぎおさすべし、はかまみじかくば、かざみおながくはりばかまよりはひきいづべし、四人のるともこの定なり、もしかざみのおもてに、ふたへおり物もあり、又ふりうもあることあらば、おもあはせにせで、うらあはせにたゝみていだすべし、まへよりはかまふたつ、かざみのしりまへよつさがりたるに、四人のりはしりもかくあるべし、二人めりは、くちばかりにいづるなり、わらはのくるまには、したすだれおかけぬことなり、されどもしたすだれおかけたる人あらばとるべからず、すだれのうらうへのはしにまきかさねて、わらはのひたひなどみゆる程にあぐべし、したすだれのすそお、いたのうちにあるきよりひきいだしたるがよきなり、はかまのうへかざみのしたには、あこめのつま、すこし見ゆ、四人のりは、しりもこの定にあぐべし、二人のりたるには、しりのすだれはおろしたるなり、わらはの車には、さい相のくるまのなれば、下すだれはかけぬなり、もし中納言の車にて、かけてまいらせたらんおとるまじ、かけながらあるべし、しもづかへあじろぐるま、したすだれかけず、すだれおあぐる事おなじ、はかまおわらはのやうにひきいだして、其うへにまへいたなどにかゝるほどに、きぬのつまおひきいだしたるなり、たゞひらにうちおきてあるべし、四人あらば、しりまへにのせてあくべし、あふぎおさすことおなじ、もおいだす、