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徒然草

今出川のおほい殿、〈○兼季〉嵯峨へおはしけるに、有栖河のわたりに、水のながれたる所にて、さい王丸、御牛お追たりければ、あがきの水、前板までさゝとかゝりけるお、為則、御車のしりに候けるが、希有の童かな、かゝる所にて御牛おば追ものかといひたりければ、おほい殿、御気色あしくなちて、おのれ車やらん事、さい王丸にまさりてえしらじ、希有の男なりとて、御車に頭おうちあてちれにけり、この高名のさい王丸は、太秦どのゝ男、料の御牛飼ぞかし、