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栄花物語
十/日蔭のかづら
たゝむ月〈○長和元年十一月〉の大嘗会御禊など、いみじうよにいそぎたちにけり、〈○中略〉女御代には、おほとの〈○藤原道長〉の内侍のかんのとの、〈○道長女威子〉いでさせ給、女御代の御車廿りやうぞあるお、〈○中略〉其日になりて、女御代の御くるまのしさまよりはじめ、あさましき迄せさせ給へり、その車の有様、いへばおろかなり、あるはやかたお造りてひはだぶき、あるはもろこしのふねの形おつくりて、のり人のそでよりはじめて、それにやがてあはせたり、袖にはおきぐちにてまきえおしたり、やまおたゝみ海おたゝへ、すぢおやりすえて、大かたひきわたしていく程、めもかがやきて、えも見わかずなりにしが、車ひとつが、きぬのかず、すべて十五ぞきたる、あるは唐錦などおぞきせさせ給へる、この世かいのことゝも見えず、てりみちてわたる程のあり様、おしはかるべし、