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古今著聞集
十六/興言利口
進士志定茂といふさむらひ学生ありける、〈○中略〉此定茂、あたらしく車おしたてたりけるお、いかにも人にかす事などもなくて、秘蔵して持たりけるにのりて、通方の大納言の、いまだ殿上人にておはしける時、かの亭へ参りたりける程に、にはかに雨ふりければ、いそぎたちて、此くるまお門の中へ引入て、くるまやどりなる、亭主のくるまおば引出して、雨にぬらして、おのれがくるまお、くるまやどりに立てける、所司見つけて、いかにかゝる事おばするぞと、とがめければ、殿はいくたびも、調じかへ給はん事やすかるべし、定茂が一車おぬらしては、又調じがたければ、かくしたるぞといひければ、所司力およばずやみにけり、