[p.0981]
駕籠は輿の一変せしものにして、其形は輿の両轅お去り、一轅お屋上に加へたる如くにして、肩に携ひて前後より之お舁くものなり、駕籠の一種に又乗物と称する者あり、其製作に少異あるのみ、凡て乗物は周囲お備後莞席お以て裹めり、而して又木お以て造り、松漆お施し、金銀お以て飾ふ、美麗お極むるものあり、徳川幕府の時、乗物の製作お以て、人品の高下お定め、家格に由りて特に聴すの制あり、普通の駕籠にも乗用の制ありしが、普通の駕籠の制は、後に漸く弛みしに由り、屢〻之お戎飭せり、要するに、乗物は固より駕籠と雲ふべし、駕籠も乗物と雲ふことなきにあらず、或は又輿お称して車と雲ひ、乗物お称して輿と雲へり、凡そ此の如きの類、古書お読むに方りて、遽に弁じ難きもの少からず、故に此篇には其名に循ひて収めたる者多し、