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嬉遊笑覧
二下/器用
駕籠は、塩尻また秋草などにもいへる如く、もと和名抄刑罰の具に見えたる箯輿(あみいた)といふ物、後にはあんだと呼る是なり、〈○中略〉太平記〈十〉亀寿殿信濃に令落条には、〓(あおた)と書たり、今世の釣台のごとくにて手負お乗、また物お運びなどするに用、同書〈十六〉執事〈○高師直〉兄弟奢侈の条に、土石おはこびたる事もあり、今も山籠といふものは、是に日覆おしたるなり、四つ手といふは、其さまお雲なり、あんぼつは、東国の詞に法師おぼちといふ、坊とおなじく遣ふ詞なり、稲おつみたるおいなぼつち、俵のこぐちおさんだらぼつちなど是なり、あんだは、罪あるものお乗る故、となふるに忌々しければ、たゞあんとのみいひて、彼ぼつおそへたるなるべし、女詞に、其物の名お顕はにいはずして、何もじと雲へる同例なり、そは労れたる旅人など乗るもの也、漸々に意巧お加へて、駕籠といふ物にはなれり、