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甲子夜話
四十七
林話、〈○中略〉余れ番頭格に命ぜられしとき、下乗橋外にて、水戸中納言殿〈治保卿〉に行逢ければ、例の如く駕お見て、余れ蹲踞しぬ、乃駕脇の者、駕戸お引て、其まヽ通られしが、何か駕中より従士に申付らるヽ様子に見ゆると、其まヽ取て返さるヽ故、余も不思議に見居たれば、元の如く橋辺へ戻りて、駕お路上に置き戸お開かせ、会釈ありて通られぬ、後に聞けば、万石より以下の面々は、通駕ながら戸お開かるヽ礼接にて、番頭以上は駕お下に置て戸お開き、従者も留りて礼待せられ、夫より駕お舁過らるヽ定法なりとぞ、