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守国公御伝記

退職の後も凡質素お主とし、往昔より代々用ひ玉ふ駕籠は、綠竹お以縁とし、世子は哂竹お用ゆ、是は二つなき乗物故、旧輿お譲り玉ふ意なりと雲伝ふれども、由緒は兎も角も、是等は無用の形容にして、何つ迄線竹にて有べきや、向後父子共に晒竹たるべしと命じ玉ふ、〈固より綠竹お用る費も少からずとぞ〉又輿簾の縁は、古来より羅紗にて製したれども、舶来の品に限る可らず、吾国に産する物にて製すべしとて、黒天鵝絨に改め、其外日覆長柄傘の袋、駄覆等は、奉職中の如くにして旧に復し玉はず、