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守貞漫稿
後集三/駕車
江戸医師乗物(○○○○○○) 蓙巻なれども、聊か小形にて、上特に狭く、唯軽きお旨とす、又窻は常の大さなれども、簾お長くするは、立派お好む也、京坂医駕上狭からず、総て常の〓打乗物に異なることなし、其故は大内の官医は、諸大夫に任じ、有髪なれば上下お著す、故に乗物お狭くせず、官医に非るも亦倣之、江戸は官医剃髪にて法印法眼に任じ、十徳お著し、平日は羽織也、故に乗物お狭くす、
追書、茲に医師乗物と書たれども、のり物と雲ず、形の乗物なれども、医者駕籠と雲也、唯官医にはのりもの、町医にかごと雲お、総てのりものと雲は非歟、是歟、〈○中略〉
女駕(○○)〈○中略〉
女乗物にも数種あり、総黒漆に金蒔絵お最上とす、蒔絵は定紋散し、或は定文に唐草、又は唐草のみおも描之歟、予見る物多くは定紋のちらし也、棒同制也、押縁黒に滅金の金具お打つ、右の製なる物には日覆猩々緋也、両端お男用の如く、乗物屋根に直に置きたる物もあれども、多くは右図の如く、〈○図略〉両端と屋根の間お透す、窻簾の縁赤地錦に緋総也、
因に記す、右の如き乗物の時は、長刀袋、挟筥覆傘袋ともに猩々緋、定紋は白羅紗の切付紋也、
高位の婦女には、乗物の上より朱爪打傘、或は一個或は二個おさしかざす也、傘轆轤の所に錦の守袋お釣たるおも見たり、次に天鵝絨巻也、紺唐草紋天鵝絨お以て、全体お包み、棒及び押縁ともに黒塗、滅金の金具、簾へり赤地錦日覆あれども、両端お透さず、屋根に直に置く、次に網代、朱漆ぬり押縁、其他ともに前に同制、唯一等粗製也、次に全体青漆押縁黒、銅具及鋲お打つ、故に鋲打乗物と雲は、俗の名付所歟、或は押ぶち鋲のみ打て、別に銅具なきもあり、次に〓打全体莞筵押縁黒、銅鋲お打つ、此二種共に窻簾同前、又棒も黒漆にて白なし、蓋錦、及び塗製に精粗あるのみ、青漆ぬりと、ござ打ともに専ら日覆なし、黒漆に蒔絵は高位及び大名の室用之、是亦精粗あり、天鵝絨巻、小国の大名も用之、大禄旗本の室専ら用之、幕府上輩の女房、同宗室及大国大名の上輩女房も用之、青漆幕府同宗室の中輩女房、大名上中輩女房用之、〓打は下輩の用とす、万石以下旗本の室も中禄の家は青漆おも用之歟、大名以下の室も私行潜行には権門駕也、其製男用と異なることなし、
因雲、天鵝絨巻に乗る人は、長刀袋挟筥ともに専ら紺或は萌木羅紗、白切付文、傘袋は無之が多し、蓋婚姻の時などは、長刀袋、挟筥おひ、ともに緋お用ふる歟、貴人及下輩ともに潜行の時は、挟筥覆紋純子に無記号也、対挟筥もあれども、潜行片筥多し、長刀傘岱等は貴人も不従之、