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甲子夜話
七十一
沼津閣老〈○水野〉上京として発途の日、予、〈○松浦清〉が中の者見来て、その行列お語る、〈○中略〉この侯の老臣土方氏は、其父より権門の余波お蒙りたる者にて、此行も旅装甚華奢なる由、従へたる山駕は、外お天鵝絨にて包み、内に曲禄の体なる者お設け、精巧お極めしとぞ、〈○中略〉従行の駕籠の日覆は、何れも羅紗羅背板の類と見ゆと、是亦見物せし者の語りき、