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続視聴草
初集十
乗物名目
一当時公家の方にては、乗物と雲はず輿と雲ひ、肩に荷担とも雲へり、六尺夫のことお、輿の者、又輿舁と雲へり、是は各古言の残りたるにて最殊勝也、
一或人雲、今乗物お舁人お陸尺と雲は、秦の世の輿は、六尺と雲より起れる成べし、曰始皇本紀に曰、数以六為紀符、漆冠皆六寸、而輿六尺、六尺為歩、乗六馬と雲々、是秦は周につぎて天下お得たる故、水徳お以て、周の火徳に代るの義なり、援に輿は六尺とあるによて、輿お役する夫お六尺の者と雲ふならんと、又雲、乗物の柄一丈二尺なるゆへ、各六尺お持して舁に因て、六尺と名づくと雲り、又六字も普通には陸尺と書也、各六つかしき考也、予〈○大塚嘉樹〉思は、輿お舁ものは、人体の長大なるお可とするゆへ、六尺の夫おえらんぢ用るゆへ、世に長大なる人お斥て六尺男と雲へり、是故お以て六尺男といへり、是故お以て六尺と呼来れるなるべし、上の諸説の如く、巧み考たることには非る成べし、〈此六尺の夫お、駕ごの者、又かご舁下雲ひ習はせり、大なる謬なり、又かごと雲るものに用る夫は、かご舁、かごの者と雲ふごと勿論力、たきもなきことなり、猶可考、〉