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人倫訓蒙図彙

駕籠借 都鄙の者是おいとなむ、当所なき時は、辻々に立居て、往還の貴賎に、駕籠やりませうといふもむつかしき業也、乗せるとひとしく肩にかけるより、何ぞに付て乗手に咄しおしかけ、隻口なしに行は、是お己が力にして行也、それとは知ず、野火(やぼ)なる乗手、気作なる男哉と思ひて、乗手より調子にかゝつて咄せば、知ぬ事なふ、間に合の空言お出るにまかせて積也、扠は相肩の互の咄しに、昨日の乗手は、奇麗な旦那にて銭お下されたが、其様な仕合にまだ逢ぬなどいひ、又は、そいつは、しわいやつではなかつたかなんど、乗てにきおもたするしかけ、頓而此方には通ておるとも知ず、又己が同志、きり、ばんどう、ぶり、ざいなん、ろうぢなど雲ことばゝ、定てわけこそあるらめ、分て下品の業也、相てにすべからず、